トピックレポート
  日本人が投資できる人民元資産  

2/7 発行の財経日報の中国人民銀行の高官の発言として、来月人民元を米ドルに対して5%切り上げ、2005年までにさらに5%切り上げる方向であり、同時に現在米ドルにペッグしている人民元を10通貨の加重平均でレートを決める通貨バスケット制に移行する方向で検討中と報道されました。

2/9 人民銀行は上記報道を正式に否定しましたが、2/11中国人民銀行の周小川総裁は本年中に『為替相場の形成メカニズムを改善する』と発言、現在米ドルに実質上固定している人民元相場を見直し柔軟に変動させることを初めて言及しました。

いよいよ、人民元の米ドルペッグの見直しにともなう切り上げが間近に迫っているといえます。この第2回レポートが載る4月号(3月末配本)には、噂通りひょっとしたら5%程度の切り上げが起こっているかもしれません。

仮に、2/7の財経日報の報道どおり仮に5%程度の切り上げがあっても、これで切り上げが終わるとは到底考えられません。したがって、にわかに現実性を帯びた人民元切り上げを利用しての人民資産投資をより具体的に検討するタイミングに来ているといえるでしょう。

さて、今回は日本人が投資できる人民元資産には何があるかレポートしたいと思います。


まず、人民元資産とは具体的になんでしょうか?そしてどのような人民元資産に投資すれば、切り上げのメリットを享受できるのでしょうか?

まず、人民元資産とは、人民元で購入した人民元で価値が表示される資産のことです。その中で、やはり投資資産としてはその価値が安定しているもの、時間と共に値上がりが見込めるものでなければなりません。
外国人が、自由に購入できるか、またある程度の期間にわたり保有した場合に、いざ人民元が切り上がった時に、外貨に自由に交換できるかどうかです。
現在、日本人が投資できる人民元資産を一覧にすると別表のようになります。


この表を要約すると以下のようになります。

人民元預金は長期的保有が前提
このレポートを読まれている方は、基本的に中国に駐在さている方がほとんどであると考えますので、基本的に人民元での所得収入があるという前提で議論を進めます。
現行制度では、外貨を人民元に交換してもそれを再交換することは6ヶ月以内に限られます。ただし、中国で人民元の所得を得ている日本人は、人民元所得にかかる所得税納税証明書を銀行に提出することで、給与所得金額を限度に人民元から外貨に交換および海外送金が可能です。
また香港では、2月25日から中国銀行を中心に一部の銀行で人民元サービスが解禁になりました。香港居住者に限り人民元預金が可能で、外貨への再交換は自由に行えます。
税務局及び外貨管理局の認可が必要という事務処理上の問題を考えると、単なる預金者が引き受けられるリスク範囲を超えており、現実的ではありません。人民元預金はあくまでも人民元のまま運用することを念頭に置いた場合にのみ成立し得る選択肢です。例えば今すぐ不動産を購入するつもりはないが、将来近いうちに購入を予定しているのであれば人民元預金で運用しておけば、外貨が人民元に際して切り下がるリスクを避けることができます。また、将来人民元が自由通貨になるまで預金を長期保有するという余裕のある方も選び得る方法です。


株式は人民元建ての株式投資は現状できない。

A株、B株、H株、レッドチップ株
中国株の中でもA株は人民元建で取引されるので、仮に外国人が外貨を元手にA株に投資できれば、切り上げにより外貨建ての価値が切り上げ分上がるので、キャピタルゲインが期待できます。

適格外国機関投資家制度(QFII)
ところがこのA株、残念ながら現在のところ中国国籍を保有する者及びQFII (Qualified Foreign Institutional Investors)1 といわれる適格外国機関投資家以外は購入することはできません。中国政府は人民元レートを一定の水準に維持するため、資金移動をもともと制限する制度を採っていることはこの本の第2章でも説明しましたが、もしA株を全面的に開放すると海外からの株式投資の資金が出入りすることになり、為替レートの維持が難しくなることを恐れているのです。しかしながら、2002年11月に、QFII制度の導入をはかり、国内A株市場を部分的に開放しました。
さて、このQFIは、今後大口の年金基金や機関投資家を中心にA株ファンドの設定をしていくだろうと見られています。2003年の7月にオフショア2 での募集ですが、QFII認可を受けたUBSが募集をかけたA株投資信託(ユニット投資ファンド)は、大口の個人投資家を中心に完売したようです。このファンドは、残念ながら日本では購入できませんでしたが、今後このような個人向けのA株ファンドの設定がプライベートバンキングの運用商品として出てくる可能性はあるでしょう。ただし、比較的富裕な投資家を相手にしているプライベートバンクの優良顧客限定の商品として当面は設定される可能性があります。なぜなら、各QFIIが投資できる金額の枠が限られており、当面各QFIIはその枠を大口の年金基金とか優良大口顧客に優先的に割り当てると考えられるからです。

B株は、外貨建ての株価(上海はUS$、深せんはHK$)で、取引されており、外国籍の投資家でも直接投資が可能です。
もともとは海外投資家限定の、外資で取引されるのがB株市場です。上場銘柄は上海と深センあわせても110社程度しかありません。
当局はB株を、A株の全面対外開放以前の試験的な市場ととらえているようで、上場銘柄数や時価総額など、市場としての規模はA株の10分の1以下しかありません。2001年2月からで、外貨口座を取得する中国国内個人投資家にもその取引が開放されています。開放された時は、一気に非常に大量の資金がB株市場に流れ込みました。

A株とB株の関係
A株とB株は、中国大陸企業が発行する全く同一権利・額面の株式です。取引対象の違いで、便宜的にA株とB株というような区別が設けられています。 B株の会社はほとんどA株としても上場しており、株価は外貨で、表示されていますが会社の財務諸表上はあくまで、人民元で会計処理されています。
基本的には、 同一権利ですので、B株の方がお買い得ですが、B株が試験的市場である以上、政策変動にはA株以上に左右されるというリスクも存在しています。
B株はそもそもA株上場の会社の中で、海外の投資資金を呼び込むための方策として作られた市場ですが、取引量がすくなく、流動性が低いため、一般にA株に比べ為替換算ベースでの株価は低くなっています。いずれ、B株はA株と統一されるといわれており、そのときは、A株との間でアービトラージ(鞘取り)がおきるということで、一時はもてはやされた時期もありましたが現在は香港市場でのH株などと比べて盛り上がりに欠けています。

ところで、人民元がきりあがった場合のA株銘柄、B株銘柄に投資している海外投資家の投資パフォーマンスにはどのような影響が考えられるでしょうか?

まず、A株は直接的には外国人は投資できませんが、間接的にはQFIIを通して、A株ファンド(外貨建てで、UBSがこの8月にローンチしたような商品。)を購入することはできます。この場合、投資家にとっては、外貨で投資していますが、投資対象は人民元建ですから、仮に投資先の株価が切り上げ前と後で、変化がなかったとしても外貨換算の資産評価はその時点で切り上げ分上がりますので、将来的にファンドが終了時点ではその分での為替益は、期待できます。株価が上がるか下がるかは、その企業、業種、経済のファンダメンタルズがどうなるかによって、個別に判断されますので一概に言えません。

では、B株ではどうでしょうか?
B株は、そもそも外貨建て資産ですので、人民元切り上げによって、為替のポジション上では直接的なメリットはありません。
人民元が切りあがれば、それ自体で株価が上がるかどうかは、マーケットが銘柄ごとに判断するので一概には言えません。ただし、会社の資産価値そのものは外貨換算で見る限りは切り上げ分あがります。外貨で取引されているため、外貨で換算した投資指標上は、PER、PBRの観点からは、他のグローバルマーケットと比較して一瞬割安感が出ることにより、その比較感で買われ修正される可能性はあります。

H株は、中国本土に本社がある香港上場株で、香港ドル建てで取引されています。主に石油会社、道路、電力、通信、流通など内需関連系の優良会社が多く、ここ1−2年、中国関連銘柄では最も人気を集めています。
QDII(Qualified Domestic Institutional Investors)という当局が認めた適格国内機関投資家が、海外の資本市場で、取引が可能になる制度で、構想段階ではありますが、国内から海外への資金流失を促す制度であるため、中国政府は慎重な対応ですが、外貨準備高が積みあがっており、人民元切り上げ圧力が高まっている現在、海外への投資を促進する政策が早まる可能性も出てきました。これが実現すると、中国国内の投資家の資金が、特に香港市場に流れる可能性が高いと見て、真っ先にH株に流れるという見方があります。H株のほとんどはA株にも上場していますが、価格はA株が圧倒的に高く、H株の価格がA株水準まで上がると予想されます。人民元資産ではありませんので、人民元切り上げによって、投資として直接的な為替利益が取れるわけではありませんが、外貨換算した資産、利益が増大しますので、また元高は内需関連にメリットをもたらす場合が多いため、内需関連の優良企業が多いH株が最も恩恵を受ける銘柄が多いといえます。

まとめ
以上のように日本の投資家が中国株を通して、人民元切り上げを狙うというのは、人民元建であるA株に投資できない現状では、為替差益という直接的なメリットを取ることは現状難しそうです。ただし、人民元資産を保有している中国企業には、人民元の為替レートの変更は少なからず影響を与えることは確かで、間接的にそのメリットを狙うことは可能です。

注目されるH株
一般的には中国株の中では、H株が一番、人民元きり上げの恩恵を受けるとの観測があります。それは中国の中では優良な企業であり、かつ内需関連が多い。人民元切り上げにより、外貨換算した利益ベースの増加となることが、その理由です。また、QDII(適格国内機関投資家といい、中国国内機関投資家にも海外の資本市場での取引が解禁される。)が来年あたりにも実現されるという見通しがあります。人民元切り上げのタイミングとこのQDIIの解禁のタイミングがどうなるのかもひとつの注目される点ですが、どちらかというとこのQDIIの解禁が中国株に与える影響が大きいと考えられます。すでに、このうわさで今年に入りH株が相当注目されていますし、実際には、購入できないはずの中国人がすでにH株を買っている(非公式のルートを使って)ため、上がっているといわれています。中国株は、基本は中国人投資家の動きに左右されると考えるのが一般であり、QDIIが実施されると、真っ先に買いに入るのは香港のH株だといわれています。H株のほとんどはA株として本土でも、上場していますが、A株に比べ人民元換算のPERが割安になっているため、国内投資家に解禁されれば、株価は自然にA株との価格が縮むと考えられます。さらに人民元の切り上げがQDIIの解禁の後実施されれば、人民元建で考えれば割安感のあるH株をさらに中国人が買いに入るという(一方で、中国人でH株を保有している人はそもそも保有する外貨で投資している場合が多く、しかも人民元に持ち帰ることを考えていない場合が多いと考えられ、人民元建の評価減はあまり問題にならない)ことも考えられます。
したがって、H株はQDIIの解禁と人民元切り上げの2つのファクターで、注目されており、証券会社は投資家に推奨しています。

期待薄のB株
逆にB株の見通しですが、すでに国内投資家に解禁されA株との価格差は縮まりました。また、B株はA株、H株と比べあまり優良な銘柄がなく、また取引ボリュームが極端に少ないことから将来性がないというというマーケットでの認識が定着しつつあります。したがって、人民元切り上げ、QFII、QDIIの認可という現在の中国株を取り巻く環境からはあまり注目されておらず、今後もあまり期待できないのではないでしょうか。

ベンチャー企業投資
さて、日本から投資できる株式投資では上場株式以外に、未上場のベンチャー企業への投資というのも方法としては考えられます。つまり、成長著しい中国マーケットで、事業をおこす起業家にエンジェルとして投資し、ビジネスが成長して、将来的に上場やM&A(企業買収)などにより、投資資金を回収するという方法です。
すでに、欧米および香港系のベンチャーキャピタルファンドは、90年代後半に中国の成長を見込んだプライベートエクイテイー(PE)ファンドを立ち上げています。ただし、このようなPEファンドは、主に大口の機関投資家をターゲットにしていて、個人の投資家には敷居が高いといわれています。(数百万米ドルが単位です)

上海在住の日本人会計士達が計画するベンチャーファンド
ところで、個人でも投資できる私募のベンチャー投資ファンドを設立しようという動きがあります。ここでは、上海で日本人投資家向けに計画されている某ベンチャーファンドをご紹介します。このファンドは、あくまで、一般に公募で募集するものではなく、あくまで少人数(50人以下)に募集活動を行うことで組成する目的であるため、この本では実名を出すことができません。
ただし、今後このようなストラクチャーで中国企業へのベンチャー投資が増えてくる可能性があるということで、ご紹介したいと思います。
このファンドは、上海に勤務する日本の会計士が中心になって組成する非常にユニークな私募ファンドです。基本的には、日本円で出資金を募り、その資金を香港の企業(匿名組合の営業者)を通じて中国の非上場物流企業に、中国国営の物流企業集団と共同出資するスキームです。現在、物流会社は独資(海外の資本の単独100%資本)が認められていませんが、中国の経済成長と貿易量の増大により、非常に成長する分野であることから、外資の物流会社が虎視眈々とパートナー企業を物色しています。このファンドは、具体的な中国の物流集団の保有資産を活用(同社から資産を現物出資をうける)し、投資家からの投資資金をもとに会社を設立。同集団の物流ネットワークと、日本の物流会社(本ファンドのキー投資家でもある)のノウハウを活用するというストラクチャーです。
したがいまして、最終的な資産としてはまさに人民元資産であり、将来的に投資企業が中国市場で上場や合弁企業への株式譲渡または、M&Aなどを通じて、投資資金が回収された場合、その間に人民元の切り上げが起きていれば、保有株式の資産価値(上場などによるキャピタルゲインに加え為替利益)の上昇が見込まれるわけです。
勿論、上場企業株式に比べ、投資リスクが大きいことは、いうまでもありません。ただし、リスク許容度の高い投資家の方には、高いリターンを狙える資産としてこのようなプライベートエクイテイーファンドへの投資の機会も今後は増えてくると思われます。

不動産
次に不動産についてご説明します。
不動産は、この3章の4.『人民元資産とは?』でも説明したように
共産主義である中国でも10年ほど前から、土地使用権付き(住宅で使用期間70年、オフィスで50年)の建物として自由に売買されるようになりました。さらに、2001年8月、外国人が買えるマンション(外銷房といいます)と中国人しか買えないマンション(内銷房)との区別がなくなり、不動産は外国人である我々が自由に購入できる人民元資産となりました。また、不動産を売却した場合に得る人民元は、外貨管理局の許可は必要ですが、外貨に交換することが可能です。(詳細は第5章でご説明いたします。)
また、不動産購入に際して外国人でも銀行からローン融資を受けることができ、人民元建投資資産の中で、唯一レバレッジ効果(てこの原理で収益効果が数倍になること)が期待できます。日本円で300万円程度の現金が手元にあり、人民元資産投資を考えるとします。たとえば上海などで市内の建築面積100u(日本の基準で言うと専有面積75u程度)で、日本円で1000万円程度のマンションを300万円の頭金で購入することが可能です。
また、一部の都市(上海などの外資系銀行が営業している地域)では、外貨建てローンを組むことができ、人民元切り上げ効果を最大限に利用することができます。

その他
日興アセット、中国国債投資ファンド創設
【上海発】日興アセットマネジメントは、8月29日中国の人民元建て国債に投資するファンドの設立を発表した。海外の金融機関が中国の国債を専門に扱うファンドを設立するのは初めて。日本国内の投資家を主な対象に、早ければ12月にもファンドを立ち上げる方針。日興アセットは中国政府が特定の外国人投資家に、証券市場を限定的に開放する『適格外国機関投資家制度(QFII)』を申請中。認可が下りれば野村ホールディングなどに次ぎ、世界で9社目となる。
日興アセットは中国の大手上場銀行、交通銀行と提携、中国国内での資金管理業務を受託した。中国政府に申請するファンドの規模は2億5000万ドルになる見通し。日本の投資家は日興アセットが募集するファンドを通じて中国の国債に投資できるようになる。

人民元建中国国債の投資ファンド設立を日本の証券会社が発表しました。
1998年に、GITIC(広東国際投資信託公司、中国最大のノンバンクCITICに次ぐ規模)の破綻に端を発し、いわゆる地方政府傘下のITICと呼ばれる国際信託投資公司の信用不安が中国国内で発生しました。GITICについては、日本の金融機関も相当貸し込んでおり、また海南国際投資信託公司HITICが発行したサムライ債(海外発行の円建て債券)の債務不履行は、日本の金融機関だけでなく、個人投資家まで巻き込み、日中間の政治問題にまで発展したのは記憶に新しいと思います。
いわゆる地方ITICは、地方政府の資金調達窓口として利用され、中国政府と同様の信用力を有しているとみなされていましたが、結局中国政府はこれらの破綻したノンバンクの救済をおこなわず、日本の金融機関、投資家の間では中国の投資リスクが改めて認識された事件でした。(筆者も当時は日本の銀行の香港支店に勤務し中国向け融資を担当しており、その対応に追われていたのを昨日のことのように思い出されます)
勿論、国債は中国政府の発行する債券ですから、地方ITICに比べ信用力は高いわけですが、最近まで中国リスクの金融商品には、敏感であった日本の投資家向けにこのようなファンドができることは、ここ数年で中国に対する見方も相当変わってきたという実感です。
ちなみに、この日興アセットの国債投資ファンドは、この原稿を書いている2003年11月時点では、個人投資家で購入できるか?いくらの金額から投資できるかなど商品概要、発売スケジュールなどは未定ということです。


図表 1   人民元資産比較対照表

以上

1 このQFIIは、中国証券監督管理委員会が(CSRC)が認めた国外機関投資家に対し、人民元建てA株の取り扱いや売買を条件付で可能にする制度です。この適格国外投資家の認可基準は厳しく、2003年9月時点ではQFIIに登録しているのはドイツ銀行、UBS、モルガンスタンレー、野村證券など8社のみです。これに日興アセットマネジメントが中国国債投資ファンド設立に向けてQFIIを申請中であるとの報道がありました。
2 日本の投資家にとっては日本、および中国以外の海外という意味。

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